伊藤計劃『The Indifference Engine』

theindiffrenceengine.jpg
早川書房、109ページ

読めば読むほど惜しまれる


最近「屍者の帝国」の映画が公開され、巷でもその名前が知られるようになった(なっているのかな?)伊藤計劃。
project itohというプロジェクトによって「虐殺器官」「ハーモニー」の映画化も予定されていて、見るのが楽しみです。

彼が生前書いた長編はたった2作、上にあげた「虐殺器官」と「ハーモニー」だけです。「屍者の帝国」は盟友円城塔との共作ですし、他にはメタルギアシリーズのノベライズを手がけていたりもしますが、基本的には寡作、というか作品を生み出す前にこの世を去ってしまった作家です。

ですが、そんなたぐいまれなる才能を持った作家が長編しか書いていなかったわけはなく、短篇も少なからず残していたということで、この「The Indifference Engine」は短編集となっています。
どの短篇も面白く、本当に読めば読むほどになんて優れた作家を失ってしまったんだという口惜しさと悲しさが押し寄せてきました。

<女王陛下の所有物>
ジェームズ・ボンドを下書きにした作品。マンガです。
『From Nothing, With Love』につながる作品ですね。

<The Indifference Engine>
この作品集の表題作にして「虐殺器官」のスピンオフ。
これはかなり秀逸でした!
いがみ合う民族と民族。そして始まる戦争。その根源とは何なのか。
その「差異」が取り除かれた時、何が残るのか・・・
秀逸な設定と緻密な世界観構築、まさに伊藤計劃ワールド
以下引用。
「歴史ってのはな、戦争のために立ち上げられる、それだけのもんなんだ。歴史があるから戦争が起こるんじゃないぞ。戦争を起こすために歴史が必要なんだ。」
「『俺』と『お前』が憎み合うから戦争が起こるんじゃない。戦争するために『俺』というものは存在するんだ」
安直な言い方ではありますが、非常に考えさせられる作品でした。

<Heavenscape>
一番最初に自然的身体政治的身体に関するコモン・ローの判例が引用されているのですが、これがつい最近読んだ「寝ながら学べる構造主義」の中でフーコーの思想を説明するために使われていました。
なので出てきたときはびっくりしました。
読んだ本だったり見た映画が違う本や映画に出てくると嬉しかったりしますよね。読書や映画鑑賞の一つの醍醐味です。
内容も面白かったです。これと次の「フォックスの葬送」は伊藤計劃と個人的に親交のあったゲームクリエイター児島秀夫さんの作品にまつわるものらしく、これは「スナッチャー」というゲームがもとになっているということ。

<フォックスの葬送>
これはメタルギアのスピンオフということで。
僕は原作を全く知らないのですが、それでも十分楽しめる重厚な作品でした。
でもそれでもやはり原作ファンだけがわかるポイントもあるらしく、その辺は唇をかんでうつむくしかできないですね。
いつかメタルギアも読んでリベンジだ!!

<セカイ、蛮族、ぼく。>
マンガやアニメのあるあるの中に「絶対的な蛮族」を放り込むことで一気にハチャメチャになってしまう、という作品。
これは単純に面白かったです。こういう作品も書いていたことが意外でした。

<A.T.D. : Automatic Death■EPISODE : 0 NO DISTANCE, BUT INTERFACE>
これもマンガ作品。ちょっとよくわかんなかったですねぇ~。ごめんなさい。

<From the Nothing, With Love.>
「007」シリーズのパロディ、というかその世界観を利用したフィクション作品。
ジェームズ・ボンドという人物が、実は同一人物の記憶を何世代にもわたって違う肉体に上書きしてきたものだとしたら・・・という設定。だめだ説明下手ですね。
これはほんと面白いです。???な書き出しも最後には仕掛けがわかるという。
「007」シリーズも見たくなってきた。

<解説>
円城塔との共作。これまた難解でよくわからん。
と思ったら「ディファレンス・エンジン」というアメリカのSF小説の解説らしい。いや、この作品集ちゃうんかい。
でもその作品もウィリアム・ギブスン、ブルース・スターリングという2人の作家による「共作」ということで。
まあニクイことをなさること。

<屍者の帝国>
これはのちに円城塔の手によって完成された長編の冒頭部分。
伊藤計劃がどこまで書いていて、どこからが円城塔の手によるものなのかがわからなかったのでそれがわかってよかった。

2つの中編「The Indifference Engine」、「From the Nothing, With Love」がやはり読みどころ。
まずは2つの長編を読んでからですが、その2つが気に入れば絶対これも読むべきです。

SF小説もっと読みたくなりました。

★★★★☆
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