伊坂幸太郎 『グラスホッパー』

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角川文庫、345ページ

小説版「ファイト・クラブ」


元交際相手が好きだったり、なんか漂うミーハー臭(てめえが言ってんじゃねえって話ですが)、そしてそのあまりの大衆受けの良さからあまりこれまで好んで読んでこなかったこの作家。
今作もKindleストアのセールかなんかで99円だったので購入。
「『グラスホッパー』?ああ、映画やってたやつか。あの大統領殺しの容疑にかけられて追われるやつでしょ」と購入。
ゴールデンスランバー」との区別もついてなかったですね。
この人の有名作品はほとんど映画化されてるからどれがどれだか。

でも読んでみたらすらすら読んじゃいましたね。
今ほかに読んでるのがちょっとあまりすらすら読み進められるようなものじゃないので、その息抜きに、と思ってるうちにこっちがメインになってしまって、気が付いたら半分くらい一気読みしてた。
「負けた」気分になった。笑

鈴木という元・教師のいたって平凡な男が、ある事件をきっかけに裏社会の大事件に巻き込まれていく・・・というのが大まかな内容。
この鈴木という男、そして「」という自殺屋(人を自殺に見せかけて殺す)、「」という殺し屋(ナイフの使い手)。
この3人の視点を行ったり来たりしながら、群像劇のように物語が進行していきます。
最初は全く違う境遇、場所にいた3人が徐々に、徐々に交差していき、最後には・・・という筋書き自体が面白いので引き込まれること間違いなし。
「どうなる?」「どうなる?」の連続なので。特に後半。

この伊坂幸太郎という作家の本はほかに『砂漠』『重力ピエロ』『オーデュボンの祈り』を読んで、これで4作目(「好んで読んでこなかった」とか言いながらたぶん一番読んでる人の一人だわ。今気づいた。前言撤回。)何ですが、そのどれにも(おそらく)共通しているのが引用の多さ。
何かといろんな偉人の言葉や昔の小説からの引用、映画・絵画への言及が多い気がします。
この作品も例外ではなくて、キーパーソンの一人鯨は常に「カラマーゾフの兄弟」を携帯していて、時たまその引用が用いられます。
さらに、蝉の雇い主・岩西は常にジャック・クリスピンというミュージシャンの言葉を引用してしゃべる男。このキャラクター好きだったな。蝉との掛け合いが。
まあ、ジャック・クリスピンなんてミュージシャンは存在しないんですけどね。
あと蝉が殺した家族の家で見た「抑圧」という映画(ガブリエル・カッソ監督)も、架空のもの

僕はこういう「知的さ」とか「それっぽさ」を演出しているような引用がちょっと前から鼻につくなと思っていたんですが、架空のミュージシャンだったり映画だったりするとなぜか許せるなぁ。
調べてから架空だとわかると「やられた!」ってなりますけどね。このやろ。

映画化されていると聞いていろいろ調べてみると、いろいろ細部の違いがあるんですが、ラストが大幅に違うと聞いてがっかり。
このラストだからいいんじゃん。相当時間があったら映画のほうも見てみたいと思います。

今年の読みはじめとしてはなかなか楽しめたので良かったです。

★★★☆☆+α


こっから下、ネタバレしてます!



この記事のタイトル「小説版『ファイト・クラブ』」にピンと来たならばこっから下読んでよし。
ちゃんと読み終わった人ってことですから。

この終わり、いいですよね~。
鈴木も幻想を見ていたんですね~。そう思わせる伏線っぽいところがあったりして、「ん?」となっていたんですが、最後こういう形になっていて納得。
どこからが鈴木の幻想だったのかというところでいろいろ解釈が分かれるところではあると思いますが、僕は「ぜ~んぶ鈴木の幻覚・妄想だった」説を押しますね。
それこそ「ファイト・クラブ」みたいに、この3人の語り部に押し屋の槿を加えた4つの人格はすべて同じで、この小説に登場する「劇団」とか、「西寺の会社」みたいなのも全部幻想。
鈴木は妻の死によって精神に異常をきたしたままだったんだけど、この物語を通して人格が最後には一つ(この物語の中での「鈴木」の人格)に統合されて、また再スタートを切る、という物語、なんじゃないでしょうか。

でもやっぱ「こういう余韻の残し方も、おしゃれでしょ?」というちょっと鼻につく感じもあるんだよなぁ。これは完全に俺の偏見でしかないけど。
この作家に関してはネガティブなところから入ってるから。
でも面白いからよし。
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