村上春樹『若い読者のための短編小説案内』

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文春文庫、251ページ

彼ほどの高みから見える景色


大学1年生の冬に「本が読みたーい!」という衝動がいきなり芽生えたとき(これを僕の中での第2次ルネッサンスという)、まず手に取ったのが「ノルウェイの森」。その次に「風の歌を聴け」、そして「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を立て続けに読みました。
「すごいなぁ」という感想を持ったことは覚えているんだけど、内容は全然覚えてない。たぶん「村上春樹を読む」という行為が先行して中身のない読書だったんだろう。
その頃よりはまだ今のほうがちゃんと意識的な読書ができていると思ってたんですが、この本を読んで思ったのは「やっぱすごいなぁ」ってこと。
ここまでちゃんとわかって読めるような人間になりたいなぁ。

村上春樹の小説作品は今現在「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」のみが電子書籍化されているのみで、他は今の環境下では読めないので、彼のエッセイ集をちょっと何冊かまとめて買った(エッセイやノンフィクション作品は全部電子書籍化されている)ので、それをこれから読んでいこうと思います。
言ってみればこれは本のレビュー、ほかのエッセイも音楽について書いていたりするので、その文章から何か盗んでこのブログの文章に還元できれば(おこがましい話ですが)、という考えもありました。

この本の中で彼は以下の6編の短編小説について論じています。
吉行淳之介 『水の畔り』
小島信夫 『馬』
安岡章太郎 『ガラスの靴』
庄野潤三 『静物』
丸谷才一 『樹影譚』
長谷川四郎 『阿久正の話』

・・・まあ一つも読んだことないですね。これらの作家の作品も一つも。

本当は読んでから、あるいは読みながら読むのがベストなんでしょうけど、それはちょっとやめて。
今回はこの村上春樹という大作家が読書に対してどういう姿勢で取り組んでいるのかを見極めたくて読むことにしたので。

そしたらびっくり、彼はそれを臆面もなくさらけ出すどころか、自分の創作活動自体についてもかなり語っていて、予想以上に作品を読んでいなくても楽しめました。
僕は小説家のインタビューというものをあまり読んだことがないんで、いわゆる小説の「裏側」についての知識が全然なかったので、今回それを読めたことがすごく刺激的でした。
とくに文庫化にあたって加筆された「僕にとっての短編小説―文庫本のための序文」という序文で彼は短編小説の可能性について彼自身の創作体験をもとにしながら論じています。のっけから引き込まれました。

そして肝心の本文ですが、これも面白かった。
彼は彼なりの「仮説」を立ててその小説を通してその作家の「自我」と「自己」(完全に村上の作り上げた概念であり、規制の哲学概念とは関係がない)の関係に迫っていくのですが、その説得力たるや。さすがです。
「巨人の肩に乗る」という言い方がありますが、まさにそれ。
自分では到底たどり着けないところからの景色を見ることができます。
自分を「あくまで素人」「日本文学の熱心の読者ではない」とする位置付けが少し過剰にも思えるところもあるけれど、それもまた彼の人間性なんでしょう。

彼はあとがきで「参加者(学生)に要求したことが三つある」として、
1. 「何度も何度もテキストを読むこと。細部まで暗記するくらいに読み込むこと。」
2. 「そのテキストを好きになろうと精いっぱい努力すること(つまり冷笑的にならないように努めること)。」
3. 「本を読みながら頭に浮かんだ疑問点を、どんな些細なこと、つまらないことでもいいから、こまめにリストアップしてくこと。」

を挙げています。

自分の読書や音楽・映画鑑賞を振り返ってみると、果たしてそれができてるだろうか。
そう考えたときに自分に足りないのは2の姿勢じゃないかなと思いました。
いつでもまず自分を中立に置くことを考えていたので、この発想はちょっと驚きでした。でもたまに冷笑的になってしまっていることがあるなぁと。反省です。

やっぱり、村上春樹はすごいなぁ。

★★★★☆

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Comment

僕も、この中の6編どれも読んだことないです。
でも“読んでみたい”と思いましたね。
積読消化しきったら図書館に行こうと考えていますが、いつになることやら……。

2016/01/17 (Sun) 15:27 | どっかの名無し #xHucOE.I | URL | Edit

>>どっかの名無しさん

ですよね!読んでみたいですよね!ただ、難しそうですが。。。

2016/01/17 (Sun) 17:21 | いが #- | URL | Edit

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