Kanye West / The College Dropout

thecollegedropout.jpg
1st、2004年、アメリカ
ヒップ・ホップ

あ、Kanye Westってこんな人だったんだ


<この作品を聴くまでのKanye Westのイメージ>
「大統領になる!」とか言ってみたり、Taylor Swiftのスピーチを邪魔してみたり、ヤンチャ。
いわゆる「イケイケなラッパー」ってやつで、曲も「パーティー、サイコー!!オンナ、サイコー!!」みたいな曲が多い。

こんなイメージを持っていた。
彼のことを全然知らない人の中にはこういうイメージを持っている人もまだまだいるのではないだろうか。
でも、この作品を聴いて、彼のことを調べるうちにいろいろわかってきて、全然彼を見る目が変わった。
そこで、彼を全く知らない人たちのために、僕が10分で調べ上げた薄い知識とともにこのアーティスト・作品を解説していきたいと思う。

まず知ってほしいこと、それは彼はプロデュースが本業であるということ。
ラッパーとして名を挙げたわけじゃなくて、Jay-Zなどの作品を手掛けるうちに名が売れ始め、ソロアルバムを作り始めたけど自分の才能に自信がなかなかつかなくて、ウジウジとあーだこーだ悩んで結局このアルバムも制作になんと4年を費やしている。
まずこのエピソードだけで好感度ぶちあがりだ。

プロデューサー業が本業なので、得意なのはラップよりもトラックメイキング。
中でも「早回しネタ」というのが得意で、彼の代名詞となっているようだ。
この作品の中でも多く聞かれるが、顕著なのが#19"Through The Wire"。
Chaka Khanの"Through The Fire"を、もともとが33回転レコードのところを45回転で早回しをし、ピッチと速度を上げてビートに乗せるという手法。
彼が発明したという手法ではないのだろうが、彼はこれを多用することで知られているようだ。

ほかにも多種多様なサンプリングを駆使したトラックをアルバム全編にわたって聴くことができる。
だからまずは彼のトラックに注目して聴いてみるのもいいかもしれない。
人によっては「Kanyeのラップは正直蛇足、ゲストだけで十分」という人もいるみたい。
ここではSyleena Johnsonをフューチャリングした#4"All Falls Down"を紹介しよう。ちなみにこの唄の部分もLauryn Hillという人の"Mystery Of Iniquity"という曲からのサンプリングである。


でももちろんKanyeのラップは決して蛇足ではなく、歌詞の内容を読むとこれまたその意外性に驚く。
彼がこのアルバムで歌っているのはオンナでもギャングスタでもなく、信仰や彼自身の生い立ちなど、非常にパーソナルな内容のものが多いのだ。
タイトルの「The College Dropout」からもわかる通り彼は大学を中退してるのだが、#15"School Spirit"ではそのことを皮肉って歌にしていて、「コイツいいひねくれ方してるな~」と思った。
僕は個人的に屈折したラッパーが大好物なのだ。R-指定Creepy Nuts)だって宇多丸RHYMESTER)だってDOTAMAだってそうだ。
自分の屈折した部分をさらけ出している、そんな姿に僕は興奮する。いや変な意味じゃなくて。

そんな中でもかなり印象的だったのが彼の厚い信仰心を歌った#7"Jesus Walks"#8"Never Let Me Down"の2曲。特に前者の中のこのリリックがとても秀逸だ。

I ain't here to argue about his facial features
俺は彼(キリスト)の表情について語ったり
Or here to convert atheists into believers
無神論者たちを信者に変えたいわけじゃない
I'm just trying to say the way school need teachers
俺が言いたいのは、学校には先生がいなきゃいけないのと同じように
The way Kathie Lee needed Regis that's the way yall need Jesus
KathieにはRegisがいなきゃいけなのと同じように(二人はアメリカのある有名番組の司会者)、君たちにも神様が必要なんだということ


この曲はトラックもゴスペル調で曲の内容とマッチしていて流石といった感じ。

後者ではJay-Zともう一人、J. Ivyという人がゲストで参加していて最後のヴァースを担当しているのだが、その話しかけるような声がすごく印象的だったので調べてみたら、ラッパーではなくて詩人・朗読パフォーマーだった。
でもその感じがトピックやトラックも相まってすごくかっこよく聴こえた。



そして作品を通じて一番感じたことはさすがプロデューサー、聴かせ方が上手い!ということ。
自分のいいところ、そのトラックのいいところ、ゲストのいいところを最大限に引き出すのが非常にうまい。
その「うまさ」がこの作品を素晴らしいものにしているように思う。

それが一番顕著なのが#12"Slow Jamz"
これは「女の子ってさ、パーティーの時でもスロー・バラードかけて~とか言ってくるよな」みたいな歌。
トラックもまさにそういったゆったりとした大人な雰囲気。
そしてKanyeがファースト・ヴァースでゆったりとしたラップを(無難に)決めた後に登場するのが、まさかの早口ラッパー・Twista
そしてセカンド・ヴァースでは彼がそのスキルを存分に発揮して気持ちいいくらいの早口フローをかましてくれる。
ここでKanyeは自分をダシ、つまり2番への「フリ」として使ってまで、Twsitaの魅力、ひいては「同じビートにも色んなのっけ方があるんだよ」というヒップ・ホップの魅力を最大限に引き出すことに成功しているのだ。
これはプロデューサー的感覚を持った彼ならではの離れ業といえるだろう。


ほかにもユーモアたっぷりにダイエット女子を皮肉った#11"The New Workout Plan"、そしてシリアスでダークなトラックがめちゃくちゃクールな#18"Two Words"などなど、いい曲がたくさんあって紹介しきれない。
とにかくこの1枚を聴いて、そして彼のパーソナリティに触れていただきたい。

間違いなくヒップ・ホップアルバムとして最高峰の出来である。

★★★★★
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