辻田真佐憲 『たのしいプロパガンダ』

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イースト新書、224ページ

気づかないうちに迫ってくる、奴の名はプロパガンダ


去年Kindleを買って初めて読んだ『ふしぎな君が代』(2015)に続いてこの人の本は2冊目。
『ふしぎな君が代』はみんなが意外とあまり知らない日本国歌「君が代」の歴史を描いた非常におもしろい本で、「ベスト オブ 読んだ本 2015」にも見事10位でランクイン。

そしてこの本は、「プロパガンダ」、その中でもとりわけ「楽しいプロパガンダ」についての本だ。
プロパガンダを「政治的意図に基づき、相手の思考や行動に(しばしば相手の意向を尊重せずして)影響を与えようとする組織的な宣伝活動」と定義づけながら、本書ではその中でも「『楽しさ』を通じて民衆をコントロールしようとするタイプのプロパガンダ」を中心に論じている。

具体的に取り上げられている内容は、
第一章: 大日本帝国の「思想戦」
戦時中の日本の歌劇、軍歌、お笑い、琵琶、雑誌、ラジオ放送、観光など
第二章: 欧米のプロパガンダ百年戦争 
ソ連の映画・アニメ・ポスター、ナチス・ドイツの宣伝、ベルリン・オリンピック、ディズニーアニメ、ロシアとウクライナのツイッター合戦など
第三章: 戦場化する東アジア 
北朝鮮の映画・楽団・アイドルグループ、韓国の軍歌、中国の抗日ドラマ・抗日テーマパーク・抗日ゲームなど
第四章: 宗教組織のハイテク・プロパガンダ 
オウム真理教の音楽・アニメ、「イスラム国」の宣伝戦など
第五章: 日本国の「政策芸術」
右傾エンタメ、『永遠の0』、『紺碧の艦隊』シリーズ、「萌えミリ」など

今回もまーおもしろかった。
みんながプロパガンダと言えばはあの北朝鮮の「将軍様」をたたえるヘンテコな歌とか、何かしら退屈で押しつけがましいものを想像すると思う。
でもこの本で取り上げられているのは、何度も繰り返しで申し訳ないが「楽しい」ものだ。
この「楽しいプロパガンダ」の怖いところは、作り手は意図的に政治的メッセージを込めているのに、受け手である国民たちはそれに気づくことなくその映画なり音楽なりを楽しんでしまうというところだ。

それを一番身近に感じたのが第五章の「現代日本におけるプロパガンダ」。
「そんなものある?」と思う方もいるかもしれないが、筆者は「メディアを懲らしめる」発言で話題になった「政策芸術」問題をこの種の楽しいプロパガンダの芽生えとして警戒視している。
そして百田尚樹の「永遠の0」についてもかなりのページを割いて論じている。そのなかで筆者はこう結論付けている。

"『永遠の0』が「右傾エンタメ」にあたるかどうかはここでは問うつもりはない。ただ、本作が「感動的な虚構」を通じて、百田の是とする歴史観に読者を誘導しようとする作品であることは疑いえない。"


バッサリです。バッサリ。
公開当時映画を見て感涙を流した自分。そのときは何も知らなかったからね。
それでも「日本の楽しいプロパガンダはまだ恐れるほどではない」と本書は結論付けているが、そのあとに筆者も言っている通り、常にメディアリテラシーをもってプロパガンダかどうか見極める必要がある。
知らず知らずのうちにプロパガンダの魔の手は忍び寄ってくる。

日本やソ連、ドイツの戦時中のプロパガンダもおもしろかったが、やはり面白く読めたのは現代のプロパガンダについて。
特に第三章の東アジアのやつ。
中国にあるという抗日テーマパークや抗日ゲームなど、読んでてやっぱり腹が立つよね。
勝ったからって調子乗りやがって。こっちはちゃんと戦争を反省しててだな、そんなエンタメなんかあるわけ・・・あれ?艦これ・・・あったー!
しかも国内での人気の度合いで言ったら艦これのほうがでかそうだ。これは文句言われても言い返せないぞ・・・
でもとにかくこの「歴史戦」において日本が出遅れているのは確かな気がする。まあ韓国中国がやりすぎっていう話なんだけど。
やっぱこの3国は永遠に仲良くできない気がしてきた。

あと面白かったのが戦時中のラジオ放送によるプロパガンダ。
国内だけじゃなくて国外に向けてもやるっていうのがおもしろかった。
日本は「ラジオ・トウキョウ」と称して20近い言語を駆使して海外向けの放送を行っていたし、ナチスドイツもイギリス出身のアナウンサーを雇って、イギリス向けの放送を行っていた。イギリスもそれに対抗したりして。
興味深いのがその国営放送の中でジャズがポピュラー音楽として使われていた点。
しかも国がイニシアティヴをとってミュージシャンを集めてジャズバンドを結成させていたというから驚きだ。

このラジオ放送といい、集められてプロパガンダ的音楽を演奏させられていたジャズバンドといい、格好の映画化材料だなと思った。
というかもうありそう。「感動の実話」的な。

ちなみに表紙のモチーフになっているのは戦時中のソ連で用いられたポスター「レンギス あらゆる知についての書籍」である。かっこいい。こういうのが好きなマニアいるよね。
レンギスあらゆる知についての書籍

とにかく読み物としておもしろい一冊だった。皆さんも、プロパガンダには気を付けよう!

★★★★☆+α
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