林真理子 『野心のすすめ』

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講談社現代新書、196ページ

心底気持ちが悪い


僕が人を忌み嫌うとき、その感情は自分よりも強い人、または強かった人たちへのルサンチマン的な嫌悪であるべきだと自分の中で決めてきました。
自分よりも弱い人たちに対してはそういう感情を持たないように努めています。
特に「モテない」という共通項は僕にとってかなり強力なボンドだと思っていて、俗にいう「モテない」「イケてない」人たちにはすごくシンパシーを感じていますし、逆に「モテる」「イケてる」人たちに対する嫌悪(実際イケてなくても本人たちがイケてると思っている人たちを含む)はとてつもない。
その結果この半年くらいで嫌いな人の数が急増、そしてそれと反比例してTwitterのフォローの数は減りました。
今ではほんとに好きな人たちのツイートしか流れてこないので精神衛生上すごくよいです。

そこに来て、この本を読んだとき、自分はこの人を嫌いになっていいのかと思ってしまいました。
というのも、読んでいて非常に気分が悪くなるような内容だったからです。詳しくは後述しますが、読み始めて10行くらいで、生理的に受け付けない感覚を感じました。
でも、この人は見た感じ(上の表紙をご覧ください)決して「イケイケ」というわけではない。
事実、本の中にはこれでもかというくらい筆者の写真が出てくるのですが、一つも「きれい」「かわいい」と思う写真はなく、ただただ不快。
でもブサイクを「ブスの癖して」のように詰って嫌いになるのは自分の中の流儀に反するような気がしました。

だから必死になってこの嫌悪感の源を彼女の外見以外に探しながら読んでいきました。
そしたらその原因の根源みたいな部分を見つけたので、以下抜粋します。

(貯金をする若者が増えているという文脈で)
・・・そうして費やしたお金は何にいちばんわかりやすく反映されるかというと、会話の面白さだと思います。というのも、つい先日、知り合いの奥さんから、
「ハヤシさんと話していると、男の人は楽しいでしょうね。政治や経済のことだって話を合わせられるし、オベラや歌舞伎や小説のこともわかるし、あと美味しいワインやお店も知ってるから……」
 と言われて、泣けるほど嬉しかったんです。たしかに、いろんなものを観に行ったり、食べたり、ということにはずいぶんとお金をかけてきましたから、ああ、やっぱり、自分に投資してきた甲斐があったのかなぁと、報われる思いがしました。


あ、うん、この人嫌いになってもいい人だ!!やったー!!
この文章を読んで気持ち悪く思う人は多いと思います。みんな、こっち側に来い!!
ここに彼女の「幸福の基準」が表れているように見えます。
「結局は男かよ」っていうところに底知れぬ気色悪さを感じました。
もちろんそういう「つもり」では書いていないんでしょうけど、これ以外の部分でもそういう風に読めるところがあって、「男にモテたい」みたいな「気持ち悪い野心」を隠しきれてないように感じました。
「ちょっと高望みするくらいがちょうどいい」のようなこの本の趣旨には概ね賛成なのですが、こういう筆者の「隠しきれない本音」みたいなのが見え隠れしていて不快です。
「私は世の中の女性と違って本音で生きてます」スタンスなだけに余計にそれを感じます。イライラ。

あと、フツーに文章がへたくそな気がしました。
何かにつけて自分の「昔は私だってこんなにダメでした」アピールや「自分はここまで成功した」みたいな自慢話をおっぱじめるので、全然話が前に進んでいかない。
自分がいじめられていた境遇をかなり具体的に延々と書いていた部分は何か怨念的なものを感じて恐ろしくさえありました。
この似たり寄ったりな実体験をバッサリカットしたらこの本は5分の1くらいの長さにはなるでしょう。
実体験だけじゃなくて、「知り合いのCAが~」とか「知り合いの医者の奥さんが~」みたいな知り合い話も多いし、特に根拠もない「最近の若者は~とよく言われますが」みたいな前提も多い。
だからメインの言いたいことが全然伝わってこないし、説得力もない。

で、こういう文章を「ワタシ、タメになること言ってるよ!私を参考にしてくださいな!」といわんばかりの押しつけがましさで延々と書き連ねているわけだからそりゃ嫌いにもなるわ。
テメーが「ありがたい言葉」とつもりで書いてるその文章な、ただの自慢と愚痴にしか聞こえねぇんだよ!

昔は直木賞とかとってるみたいなので才能はある人なんでしょうが、この作品を読む限りその才能も枯れ果てているようにしか思えない。
昔の作品を書いた時のことがこの本にいろいろ書いてあって、それまた読む気をそぐような自分の成功美談としてまとめられているので昔の本すら読みたくなくなったわ。

落ち目の女流作家が「野心」とかいうチンケな正義感を振りかざしてこれまでためてきた恨みつらみをつらつらと書いた作品としか思えなかった。
押しつけが過ぎるし価値観が安すぎ。久しぶりに気持ち悪い読書でした。

★☆☆☆☆
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