井上和彦・金慶珠 『悪韓論VS悪日論 日本と韓国はどちらが嘘をついているのか』

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双葉社、256ページ
Amazon

この話し合いの場自体に価値がある


<内容紹介>
かつてないほどに日韓関係が冷え込んでいる。韓国は日本を歴史をねつ造する国家と糾弾し、日本は韓国こそ自国の都合のよいように歴史を歪めていると指摘する。本書は日韓を代表する2名の論客によるスリリングな討論をまとめたものだ。日韓基本条約、従軍慰安婦、靖国神社、メディアの功罪etc.日韓どちらの主張が誠実なものなのか!?


集中講義!日本の現代思想―ポストモダンとは何だったのか』という本を紹介したときに「自分は右派だ」と書きました。
日本が好きだ、みたいなとても安易な考え方でそうなのかなと思い始めたのですが、実はあまり深くは考えたことはなくて。
特に韓国・中国に関しても「なんとなく嫌い」という域を出ない(もちろん人レベルでは好きな人もいる)ですし。
こんなんじゃダメだ。何も考えないで世の中の潮流に流されているだけじゃないか。
こりゃいかん。実にけしからん。ということでAmazonで安かったのもありこんな本を購入してみました。

まず、日本と韓国、両サイドを代表して激論を交わしている論客を紹介。

井上和彦
ジャーナリスト。法政大学社会学部卒。軍事・安全保障・国際政治問題をテーマに言論活動を行う。


金慶珠
東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門はコミュニケーション論、メディア論を中心にした社会言語学。


これ、まずこの二人を設定している時点で少し違和感を感じました。かたやジャーナリスト、かたや言語学者。
お互い専門分野が違うわけだし、この本のテーマからいえばジャーナリストの井上さんが大分有利では?な~んて思いながら読み始めました。

本書で扱われているテーマは主に四つ。
歴史認識問題(戦後賠償、(従軍)慰安婦問題、竹島・独島問題など)
日韓間の政治問題(在日コリアン問題、靖国神社参拝問題、ヘイトスピーチなど)
日韓文化(整形、韓流ドラマ・K-POPなど)
悪韓論・悪日論を超えて(中国との関係、安全保障など)

もうね、バッチバチです。
二人とも「この2国がいがみ合っていても何の得もない」という点では認識が一致しているのですが、やはり一線を越えたところには二人とも譲れないものがあるようで、そこに関してはもうバチボコに言い合っています。
当然韓国側の主張は「戦後賠償をしろ」「独島は我々のもの」「慰安婦は軍の組織的犯罪である」という内容になる。
Amazonや読書メーターのレビュー欄を見ても「これだから韓国人は」「この国とはかかわらないのが一番」と書かれているものが多かった。

だが、しかしである。
この井上和彦という人間が生粋の愛国者・極右思想家であるゆえに、彼の発言は100%自分の是しか認めない論調になっている。
その結果何が起こっているかというと、自己矛盾やただの言いがかりにしか超えないような発言が目立ってしまっています。
戦後賠償について「日韓基本条約で<完全かつ最終的に解決された>と言われているのだから、ザッツ・オール。それを蒸し返すなんておかしい」と言っておきながら、「東京裁判は戦勝国による復讐であり、到底公正な裁判として認められるわけではない。今すぐ判決を棄却するべきだ」と述べたり。
不必要に韓国側の感情を逆なでるような発言も多かったです。引用。

"誤解を恐れず言うならば、慰安婦がいたおかげで周囲の婦女子を性犯罪を守れた側面があった。軍人への性病の蔓延を防ぐこともできた。そのうえで慰安婦として働いてくれた女性には多額の報酬も支払っている。むしろ慰安婦の方々は、あらゆる面で感謝され顕彰されるべき存在なのです。"


この本の中では「法にのっとった理性的な考え方の日本」と「感情論の韓国」という図式が多かったように思います。
「韓国併合派当時の国際法にのっとって行った正当なものであって、植民地支配ではない」とか「領土問題は国際司法裁判所で決着をつけるべき」という主張はそれが韓国側が受け入れるかどうかは別として一つ「筋の通った」ロジックです。
だったらそれを武器として戦っていけばいいのに、なぜか不必要に攻撃的な言葉をぶつけていく井上氏のやり方には賛成しかねる部分が多かったです。
金慶珠さんがあきれてしまうシーンもたびたびありました。

これでは多少リベラルな価値観がも持ち合わせ、柔軟な議論ができている相手方の金さんの方が大人に聞こえてしまいますし、事実少なくない争点に関して僕は「ふむふむ、韓国側の言うことも一理あるな」と思わされました。
でもこれは決して僕が左翼とか井上さんが言うところの「売国奴」であるとかそういうことではなく、単純に井上氏の議論・発言が金氏のそれを下回っているからです。客観的に見てそれは明白でした。
井上氏は自分を「愛国者」だと称していましたが、こんなある意味「バカ丸出しな」発言を繰り返していては、その愛する国のためになっていません。
この本の中で井上氏は「国の立場を積極的に訴えていくべきのNHKが、あろうことか率先して自虐史観的なドキュメンタリーを製作し、国を批判している。こんなバカげたことはない」という旨の発言をしているのですが(この発言も決して褒めらえれたものではない)、その井上氏自身がいわばNHKのようなことをしてしまっているように思えました。完全なるブーメラン。
こんな人を日本代表として出してしまったこちらに非があるとしか思えません。これでは正しい主張も通りません。
正直井上さんにはジャーナリストとしての資質があるのかどうか疑問です。
願わくばもっと能力のある人の主張をもっと聞いてみたいものです。

でも、一方的に「韓国は悪」「日本は悪」と決めつける論調の本が多い中で、やっぱりこうして意見を交換し合って討論をするということは一つ前進だと思います。
この本で出た結論は「悪韓・悪日というものを乗り越えて、Win-Winの関係を築くべき」といういわば常識的なものにとどまっていて、決して大きな前進ではありませんが、こういう場はもっと設けられてしかるべきだと思いました。
その一方で「こういういがみ合いはいったん棚上げして、交流をもっと深めるべき」という「積極的棚上げ論」にも少し可能性を感じました。

この本では中国の話はあまり出てきませんが、この日中韓のお話はもっともっと掘り下げていろんな本を読んでいきたいですね。
このトピックに関しておすすめの本があれば下のコメント欄に!

★★★☆☆
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