ラリー・コリンズ、ドミニク・ラピエール 『パリは燃えているか?』

isparisburning.jpgisparisburning2.jpg
早川書房、437ページ(上巻)・462ページ(下巻)
Amazon(上巻)Amazon(下巻)(共にKindle版あり)
★★★★★

パリ解放の裏側を圧倒的ディテールで描くノンフィクションの傑作

ちょっとすごい本を読んでしまいました。
もう今年の「ベスト オブ 読んだ本」ベスト10入りは確実、優勝の最有力候補です。

<内容紹介>
第二次大戦末期、敗北を重ね追い詰められたヒトラーは命じた。「パリを敵の手に渡すときは、廃墟になっていなければならない! 」この命令を受けたコルティッツ将軍により、ドイツ占領下のパリの街なかには、至る所に爆薬が仕掛けられた。エッフェル塔、凱旋門、ノートル=ダム寺院、ルーヴル美術館……世界が愛する美しい街並みは、灰燼に帰してしまうのか? 1944年8月のパリ攻防をめぐる真実を描いたノンフィクション。

原著は1965年発表、翌年に日本語訳が出版されて、その後文庫化。2005年に再び単行本として復刊されたのち、今年2016年に新たに文庫化されたという運び。
同名の映画もあって、そっちの方が有名みたいです。ググっても映画の方ばっかり出てきます。

で、この本の何が凄いって、とにかくディテールがすごい。
筆者たちがこの作品の執筆のためにかけた労力を知るために、上巻の冒頭に書かれた「感謝のことば」からその冒頭部分を引用しようと思います。
「『パリは燃えているか?』は、ほぼ三年間による年月と、共著者、多数の協力者、その他いろいろの面で協力して下さった公式、非公式の何百人という人々の協力のたまものである。本書の調査は時期的に二段階にわけて考えられる。第一段階では、この主題に関して入手しうる資料を全部探しだし、翻訳し、研究した。第二段階では、パリ解放の劇に主役を演じた米英仏の事件の主人公の行方を辛抱強く探し、インタビューを行った。」
どうです。三年間ですよ。数百人ですよ。この後もこの「感謝のことば」は延々と続き、この本がいかに綿密で膨大な量の取材に基づいて書かれたのかがよーくわかります。

ディテールが細密すぎて、確かに読みにくいことは確か。
どんどん視点が移動するし、どんどん新しい名前が出てくる。
この作品の構造としては、「パリ解放の全体像を描く」というポリシーのもと、ナチスの将校やドゴールという歴史に名を遺す有名人のエピソードから、いちパリ市民、いち解放軍、いちドイツ兵のものすごく小さなエピソードまで、本当にその数日間に起こったことすべてを書いて本にしてやろう、という気概が感じられます。
でも、慣れないのは最初だけで、読んでいくうちに主要人物の名前は憶えてきますし、一度二度しか出てこない名前も前後のエピソードから「ああ、あそこでなになにしてた人か」という感じでスラスラ読めるようになります。

しかも、そんなにエピソードを詰め込んでいったら物語としての一本筋が希薄になってしまいそうですが、それをギリギリのところで絶妙に交わしているのがこの著者たちのすごさです。
「ナチス(ヒトラー)がずっとパリの破壊を命じているのに、パリ司令官・コルティッツの心変わり、いろんな人たちの奔走、驚くような奇跡の数々によってパリは破壊を免れる」というストーリーはやっぱり普遍的かつ大きな感動を呼びますし、何より読者への求心力が強い。
素晴らしいストーリーテリング力です。

とにかく「これ実話なの?」って何回も疑っちゃうくらいうまくいく場面もあるし、「映画かよ!」みたいなセリフの言い回しとかがバンバン出てきて、「か、かっけえ~」ってなっちゃう場面が何個もあるんです。ラップでいうパンチラインがぼんぼん出てくる。
その最たるものが、ナチス・ドイツ軍の大パリ司令官・コルティッツが、パリ市長・テタンジェによってパリの破壊を思いとどまるように説得するシーン。テタンジェのセリフがかっこよすぎるんです。以下引用。
「将軍たちは往々にして破壊する権力はおもちですが、建造する権力はほとんどおもちになりません。いつの日か、あなたが観光客としておいでになったとき、このバルコニーに立って、もう一度この私たちの喜びと苦しみの目撃者である記念建築物を見て、こういえる日が来るかもしれません……「かつてこの私、フォン・コルティッツ将軍は、この建物を全部破壊しようと思えばできたのだが、人類への贈物として保存しておいたのだ」と。将軍、これこそ征服者の無上の光栄ではありませんか?」
すげえ。すげえよ。こんなのを面と向かって言えるなんて。

あと、この本のタイトルでもある「パリは燃えているか?」がヒトラーの口から出る場面も鳥肌モノ。以下また引用。
「「ヨードル」彼は独特のしわがれた声で叫んだ。「パリは燃えているのか?」重苦しい沈黙が地下壕のなかにみなぎった。ヴァーリモントはまわりの同僚たちの茫然自失した顔を見まわした。
 「ヨードル」ヒトラーはテーブルを拳固でたたき、重ねて怒号を続けた。「私は知りたいのだ―パリは燃えているのか?いま、この瞬間、パリは燃えているのか?イエスかノーか、ヨードル、どうなのだ?」」

セリフ以外の地の文も、気の利いたかっこいい文句でパラグラフや章を締めくくったりと、とにかくドラマティックに描くことに注力しているんだなと感じました。

とにかく感動しますよ。
ついに連合軍がパリに入城してからが特に。
あれだけ町を挙げて、国を挙げて何かに感動できるって、やっぱり戦争ぐらいしかないんだよなあ。
そう思うと、なんだかこれを読んで感動するのもなんだかなあ、な~んていろいろ考えてしまいました。

いや~、やっぱりすごい本だったな。
映画版も見てみよ~っと。

Feedlyの購読はこちら!

follow us in feedly
スポンサーサイト

Comment

Leave a Reply


管理者にだけ表示を許可する