土屋賢二 『われ笑う、ゆえにわれあり』

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文藝春秋、261ページ
Amazon(Kindle版あり)
★★★★☆+α

ハハハと声を出して笑っちゃう

人を笑わせる、というときには、それをどのような手段でやるのかを十分に考えなければいけません。
漫才には漫才の、コントにはコントの、バラエティにはバラエティの、漫画には漫画の、映画には映画の「笑い」の方法論のようなものがあって、それを間違えると途端に面白くなくなる、ということが多くあります。
だから漫才をそのまま漫画にしても面白くないし、コントをそのまま映画にしても面白くないのです。
でもその方法論というのは何かに書いてあったりするもんじゃなくって、それでいて常に変わり続けている曖昧模糊なものだからまあ大変。

もちろん、文章にもそういう方法論というのは存在して、それは漫才やコントや漫画や映画を文字起こししてもオリジナルほどの面白さを維持できないということから明らかです。
僕もこのブログでは一応面白い文章を書こうとは思っているのですが、まだまだ自分の中での「これだ!」というやり方を見つけられずにいます。
これから見つけられるという保証もないのですが、ぼちぼち頑張っていきたいと思います。

その点、この本はその文章における「笑い」という点に関してかなりレベルの高い本だと思います。
何回も「ニヤッ」「ププッ」「ハハハ」と笑いながら読み進めることができました。
冒頭の文からして面白い。「はじめに」より引用。
"以前から書きとめていたものがかなりの量になり、出版をしきりに勧めてくれる人がまわりにいなかったので、自分から出版を交渉した結果がこの本である。事前に何人かの人に読んでもらったところ、「面白くない」と言う者と、「つまらない」と言う者とに意見が分かれた。なお、公平を期すために、「非常にくだらない」という意見もあったことをつけくわえておこう。"
これを読んでにやりとした人は、この本がかなりツボにはまること間違いなし。

本職は哲学を教える大学教授、という事らしいのですが、「頭の回転が早くて口達者なんだろうなあ」というのが文章からにじみ出ています。
大学における助手との口論(もちろん実際のではないだろうが)を描いた「助手との対話」や、廊下ですれ違った学生との口論を描いた「学生との対話」の二編から、この筆者の頭の良さ、そして人間としての小ささ(褒め言葉)を感じることができます。
前者は「会議に行きたくない」とただただ駄々をこねるお話だし、後者に至ってはひたすらお互いの揚げ足を取るだけの素晴らしくくだらない内容なのに飽きずに読めるのは「面白さ」ただ一点の理由のみ。

この筆者のイヤミらしさが存分に発揮されているのが「女性をとことん賛美する<超好意的女性論序説>」の項。
こんなひねくれた筆者ですから、このタイトル通りなわけがありません。
"まず、正直は美徳だという観念を捨てなくてはならない。ここで多くの男はつまづいてしまう。われわれは、ワシントンが桜の木を切ったエピソードを聞かされて、正直者が結局は得をするということを学んで以来、嘘をつくまいとする条件反射的な態度が身にしみこんでいるのだ。これを捨てるには、私の経験では、
「あなたはとても美しい」
 という文を、机や生ゴミに向かって抵抗なく言える練習をしておくのが効果がある。"
こんな調子です。くー。サイコー!

他にも禁煙についての「今日からタバコをやめられる――でなくても禁煙をやめられる」、とてつもなく面白い自己紹介である「わたしのプロフィール」、ワープロ・パソコン黎明期によくもここまで鋭い洞察ができたなあという驚きを禁じ得ない「あなたも今日からワープロが好きになる」、日本という国のおかしなところを冷笑的に斬っていく「デタラメな日本紹介記事に抗議する」などなど、おもしろいエッセイが目白押し。

はっきり言って面白い以上の中身は一切ないといってもいいくらいですが、非常にオススメです。
こういう不必要なノイズこそ人生に必要なものなのですから。


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